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有限会社ナスカ一級建築士事務所
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空箱

箱に入れるという概念は、それがなければバラバラだったものが、「ひとつの箱」に詰め合わされることで、ひとまとまりのものとなる、というものと、それが なければ不定形であったり、壊れてしまいそうなものが、「堅くて丈夫な箱」に収められることで保護されるという、ふたつの性質を孕んでいる。言い換えれ ば、前者のひとつの箱としてはひとつながりに閉じた内膜に意味があり、後者の堅牢な箱としては外郭によって、箱が成り立っている。建築で「ハコモノ」と言 えば、形ばかりで中身のない無用の長物のようにとられることが多い。その意味での箱は、建てる場所が違っても大同小異の建物が建ち、箱の性能は、学校で あっても病院であっても劇場であっても、もっぱら既定の中身に対する、経験上の価値判断によってのみなされてきた。また、中身を限定しない「多目的」を標 榜するものは、往々にして「無目的」になっていずれの役にも立たないと批判されている。しかし、空間の中身を軽視して箱の建設にばかり奔走するのは論外としても、箱本来 のふたつの意味に立ち帰るならば、中身が何かに固定されて専用化されることのほうが、むしろ建築が存続するであろう長い時間に対応できないと考えられる。 内容物のかたちにこまごまと追随する梱包は、それを解くと同時に目的を失って廃棄物と化してしまう。われわれはこれからの建築について、より抽象化された 箱の原点を捉える必要がある。

「空箱」