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有限会社ナスカ一級建築士事務所
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多摩市立複合文化施設          パルテノン多摩 改修TAMA City Combined Cultural Center Parthenon TAMA Renovation

東京都多摩市落合2丁目35

設計 古谷誠章+NASCA・東畑・森村設計共同企業体
用途 公会堂、博物館
構造 SRC
規模 地下1・地上5
敷地 23,093.80㎡
延床 15,215.35㎡
竣工 2021.12
受賞 2016多摩市立総合複合文化施設等大規模改修工事基本計画及び基本設計プロポーザル案 最優秀賞
掲載 近代建築2022.10、ARS2022.10、建築画報2022.01

パルテノン多摩は、多摩ニュータウンのシンボル的な建築で、1987 年に開館して以来、多様な公演を催す鑑賞の場、市民のハレの場として老若男女に親しまれてきた(設計:曽根幸一・環境設計研究所,本誌8802)。しかし、老朽化とともに各種設備の故障リスクの上昇や各所仕上げの劣化が進むなか、早期の対応によって継続的かつ高水準のサービスを提供できる状態に回復させることが必要不可欠となった。また、開館後の多摩センター周辺や近隣類似施設および社会状況の変化により、年々施設の利用率が下がり、テコ入れが必要な施設になりつつあった。地域文化の創造と新しい住民層も含めたコミュニティ再生、地域のさらなる発展を支えるという使命を果たすために、元の姿に復元するだけでなく、従来になかった新しい市民ニーズに応える(+アルファを付加する) 施設を目指した。建築自体は新耐震基準以降のものであり、十分な堅牢性もあった。そのため、すべてに手を入れて改修するのではなく、「元々あるものに新しいものを付け加えて、古いものと新しいものが一体になって生まれる新たな価値を持つような改修」を基本方針とした。
かつての内部空間は個々の機能が独立し動線も分離しており、市民が自然に交流する上で大きな支障となっていた。そこで主として2階や4階などで、各機能への動線にあたる空間を仕切っていたコンクリートの間仕切り壁を撤去し、全体をオープンに繋ぐ空間に改修した。さまざまな目的で訪れる市民が行き交い、それらの人びとがさりげなく出会い、相互交流を育む場所となるように計画した。
大小ふたつのホールのうち、特に大ホールは開館当初からクラシック音楽に優れた音響性能を持った劇場であったが、今日のホール空間に寄せられる要望は実に多様化しており、既存の施設構成では応対しきれないものとなっていた。演劇系などの利用が少なく,ホールの稼働率も下がり気味であった。これらに応えるために音響性能のさらなる改良に加えて、舞台の鑑賞がしやすい客席の間隔や勾配の再構成を行い、舞台機構や設備の刷新、舞台裏や楽屋群、トイレ周りなどのバリアフリー改良などを含めて、現代の要請に応えるホールとなるよう徹底的な改善改良を行っている。
今回の改修では、建築全体を全面的に塗り替えるような改修をするのではなく、それぞれ空間の要となる場所に、既存空間を活かしながら局所的に新たな要素を付加して、新旧の要素が一体となって生まれる空間のまとまりをつくりだした。設備などのインフラもすべて隠蔽するのではなく、部分的には露出させて工事費も抑えながら、今後の使い方の多様な変化にも容易に対応できる冗長性を持たせ、さらなる将来に向けて日々更新されていくことを念頭に置いている。今回の改修が大きな端緒となり、今後も時代の変化に応答しながら、絶えず変化していく動的な姿を思い描くことで、生き続ける空間となることを祈念している。

撮影 淺川 敏