神宮前メグビルMeg Building
東京都渋谷区神宮前
変化し続ける都市の中に佇む「空箱」
設計 | 古谷誠章+NASCA |
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用途 | 店舗 + 事務所 + 賃貸住宅 |
構造 | RC+S |
規模 | 地上4 |
敷地 | 96.66㎡ |
延床 | 189.88㎡ |
竣工 | 2007.02 |
掲載 | 新建築2009.02 |
プロジェクトは 20年前に遡る。もとは小さな印刷工場兼住居のあった30坪の土地は、都市計画道路により20坪に縮んでしまう。北側斜線もかかる厳しい条件だ。最初はオーナー住居を上階、下階を賃貸のプランを立てたが、バブルが崩壊して一旦白紙。その後、1 棟を2世帯住居と商品倉庫に使うという借り手のためにプランを練ったが、条件に合わず中断。最終的に1店舗とSOHO的な2住居のプランにまとまった。
その問に大きな景気の高揚と沈滞が繰り返され、一方で45年も前に決まった計画道路は一向に施工されず、おそらく今後も当分実現しない。都市の片隅のこの土地が、大きな社会経済の波間に漂う木の葉のように感じられた。全国の都市部にはこんな場所がゴマンとあるだろう。
これに建築から応えるにはどんな手立てがあるか。荒波に揉まれてもへっちゃらな「どうにでもなる」 建築がほしい。ご時世が変わっても平気とは、「フレキシビリティ」なる語では表現しきれぬ融通無碍さが必要だ。さりとてただの倉庫では空間そのものの価値が出ない。ざっくりとしながらどこか飄々として、内部機能の変転にもお構いなく佇んでいられるそんな「空箱」を考えた。
両隣との間に余裕がないので、凹凸をデザインしたGRC断熱パネル捨て型枠で手間とスペースを省き、外断熱内部打ち放しの空間をつくる。セパレータは外ではパネル目地部に、内では型枠中央に配置した。さらに GRC断黙パネルを真物で構成し、開口部はその隙聞を利用、各階に高中低の開口がくるよう「あみだくじ」状にばらまいた。洞穴のような内部に仄かな抜けをつくり、将来の空調換気や給排水用の予備スリーブとしても機能する。計画道路部分では鉄筋コンクリート躯体が認められず鉄骨造としたが、外壁は同じパネルを連続させる。ついでに外部のPS部分でも、まったく同じ模様のアルミパンチングを覆いにした。人が都市に期待するもの、容らし方は、10年前には予想できなかったほどに変容する。特に経済活動と抱き合わせの都心部ではその変転が著しい。建築はそれに即応するには長寿命だし、もっと鈍重なものだ。この土地にこつこつと生業を営んだかつての施主は既に他界し、その子たちの世代に移ったが、これでやっと往年の計画が実現できた。
撮影 淺川 敏