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有限会社ナスカ一級建築士事務所
162-0052 東京都新宿区戸山3-15-1 日本駐車ビル4F
T 03-5272-4808 F 03-5272-4021

田野畑村 生きがいの館  思惟創館Tanohata Ikigai no Kan

岩手県下閉伊郡田野畑村菅窪151-61

設計 古谷誠章+NASCA
用途 旅館
構造 W
規模 地上2
敷地 903.12㎡
延床 347.03㎡
竣工 2020.8

もともとこの住宅は1930年(昭和5年)に元田野畑村長工藤精作邸として新築、1986年(昭和61年)に村へ寄贈され、現在地に移築後は高齢者の活動施設「生きがいの館」として村民に活用されてきた。その後の老朽化により今回の改修工事を実施、簡易宿泊や研修、農山漁村体験・都市農村交流施設「思惟創館」として生まれ変わった。外観の素材や色彩はかつての「生きがいの館」を継承し、保存・復元的に改修している。屋根は改修前の鮮やかな瓦葺きを再現するため、新たに二色葺きとし、1階の戸袋はそのまま保存、2階戸袋は腐朽部分のみ再塗装することで、新旧が対比的に調和するようにした。古い瓦は砂利敷きの土留めに再利用し、たたきも保存することで、改修前の素材を感じることのできる外構計画としている。
 建物の構成としては、宿泊室やキッチンとなる部分はそのままに、下屋部分にあたる浴室やトイレ周りを増築する計画とした。古材はできるだけ生かすことで昔ながらの趣を残しつつ、組子による透ける耐力壁を採用することで、新旧の木材が対比的に調和するデザインとした。自炊も可能なキッチンは木造の古い小屋組を現しとし、柱梁はあえて煤汚れを洗い切らずに残し、古材をそのまま利用して、煙だし窓のある昔ながらの土間空間の雰囲気を踏襲した。
 2階の諸室は雨漏りにより床や梁がそうとう腐っていたが、残存する木材は最大限残しつつ必要な補強を行なって宿泊室として改修した。洋間は改修前から、この一室だけは木の腰壁が特徴的な洋室として使われていた。ここを洋室の宿泊室とする可能性もあったが、ここでは宿泊客同士のプライベートな交流サロンとして、壁面に木ルーバーの間接照明を入れて、赤カーペットの異空間を生み出した。旧工藤村長邸の持っていた折衷趣味を偲ばせる意図もある。

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撮影 淺川 敏