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有限会社ナスカ一級建築士事務所
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認定こども園 こどものにわ 西浦和幼稚園Nishiurawa Kindergarten

埼玉県さいたま市南区

設計 桔川卓也/NASCA
用途 認定こども園
構造 S
規模 地上2
敷地 2,218.54㎡
延床 1,299.64㎡
竣工 2024.8

埼玉県さいたま市の住宅地に位置する認定こども園の計画である。1966年,周辺がまだ田園風景だった頃に開設された幼稚園は,園庭を中心に園の関係者の住居が隣接して建ち、まるで園庭を遊び回る子どもたちを見守るような「地縁型のコミュニティのかたち」を彷彿とさせる光景だった。長い歴史の中で数々の増改築を経てきたこの幼稚園は、施設の老朽化に伴い、「幼保連携型認定こども園」への建て替えを決定した。
私たちの多くが幼少期に保育施設で長い時間を過ごすにもかかわらず、その記憶は成長するにつれて薄れていく。そこで、新たな園舎は、子どもたちの感性や思い出が長く刻まれる空間を目指した。
0〜5歳までの子どもたちの記憶に残る抽象と具象を模索するため、子どもたちが描く絵を参考にした。握りしめたクレヨンで描かれた絵からは、「丸・三角・四角」といった分かりやすい形や「強い色」で物質を捉えていることが分かった。そこで、建築の形状は、子どもたちが大胆に描く絵のような抽象的で印象的なデザインを追求した。その結果、雲をイメージした厚みのある穏やかな屋根と、園庭と室内を優しく包み込む空間が生まれた。
新たな園舎の配置は、隣接する住居のリズムに調和させ、園庭を囲むような一体感のある空間構成を意図した。縁側空間となる「でんぐりテラス」は、園庭と保育室を繋ぐ役割を果たし、すべての部屋が外部から直接アクセスできる設計とした。
特徴的なヴォールト屋根は直線的な中心軸を生み出し、テラスの平面形状は園庭の中心を基点とした円弧の連続で描くことで、どこにいても園庭と繋がる求心性のある居場所をつくり出すと共に、室内からの広がりを生む視覚効果も実現した。屋根は園庭に対し自由曲線で切り取った上、ヴォールトごとに円弧状に張り出させることで、室内側への中心性をつくりだした。抽象的な屋根の形がおおらかさや囲まれた安心感を生む一方、赤く塗った直線状の梁と柱は空間の基軸となり、屋根の下に区切られた領域を生み出す。これらの具象的なエレメントは、さまざまな色や構成、マテリアルによって存在感を際立たせている。
このようにして生み出した半屋外の多層的な空間が、園児ひとりひとりがお気に入りの場所を見つけ、環境を意識しながら成長する場となり、いつまでも記憶に残り続けることを願っている。

撮影 淺川 敏