柚香庭Yuko-tei
東京都世田谷区
設計 | 古谷誠章+NASCA |
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用途 | 住宅 |
構造 | RC+W |
規模 | 地上2 |
敷地 | 236.94㎡ |
延床 | 219.24㎡ |
竣工 | 2022.03 |
掲載 | 住宅特集2022.07 |
家庭という言葉には家と庭の字が含まれている。家族にとって住まいとは何かを考える時、居住空間としての「家」に関心を持たない人はいないが、そこにある「庭」の意味については、ともすれば置き去りにされている。昨今の感染症の蔓延によって、窓から外気を採り入れることや、日常生活における屋外空間の重要性を再認識させられつつあるので、この機会に「庭」の意味を再考するのもいいかも知れない。敷地内外の「スペース」は、物理的に良好な換気や採光を可能にするだけでなく、近隣住民との関係や、同居する家族間の関係をとりもつ精神的にも大切な役割を担う。庭は単に景色や趣味を楽しむだけのものとは限らず、また必ずしも自分の敷地内だけにとどまるものでもない。
クライアントはこの場所で育ち、このところは一人暮らしをしていたが、再びここで子世代と共に暮らそうとしてこの家を建てた。近所には旧知の人たちもいれば、新たに移り住んできた住人もいる。もし仮にコートハウスのような家を建ててしまったら、家族が占有する中庭は生まれるが、周囲に対しては拒絶的なものになってしまう。隣人とも隔絶せず、家族間も過度に干渉し合わない、適度な距離(最近よく耳にする言葉だ)を保つための「庭」とそれぞれの居場所との関係が肝要である。両親世代の庭から今に残した一本の柚子にちなんで、この家を《柚香庭》と名づけた。空間の主役は生活の舞台となる「地」の部分である。家の内部もその延長としてつくられており、人の住むすべての場所は、内外を立体的につなぐこの庭の一部となっている。
都会の立地上、主たる構造はRC造としているが、2階床と屋根を支える部分を木架構として現しにしている。寝室や浴室周りは重ならない位置にあるが、上下階ともにリビング・ダイニングが要の位置にあり、互いの気配は庭を介して感じられる。時には下階のテラスと上階のバルコニーを繋いで楽しむことも可能だ。ガレージも固く閉ざさないでおくことで、家の外の道空間も含めて近隣にもつながる庭となっている。
撮影 淺川 敏